上下顎前突は、上の顎だけ出ている出っ歯とは違い、上の顎も下の顎も出ている状態を言い、その見た目から「口ゴボ」と言われることもあります。今回は、口ゴボを引き起こす「上下顎前突」という状態について、症状や特徴、原因、治療方法、治療しないことによって起こるリスクや悪影響についてご紹介します。
1.上下顎前突の症状・特徴
1-1 口元が前に出ている
横顔を見た時に口元がボコッと出ている「口ゴボ」。この状態になっている場合、上の前歯が出ている上顎前突(出っ歯)のケースのほかに、上下の顎どちらも出ている上下顎前突のケースがあります。
いずれも日本人に多い歯並びではありますが、特に見た目をからかわれたり、コンプレックスになったりしやすい歯並びでもあります。
1-2 歯が露出したままになりがち
歯が前方に突出しているので、唇が閉じにくく、歯が露出したままになっていることも多くあり、「ニヤニヤしている」「不真面目だ」などと、他人に誤解されることもあります。
1-3唇を閉じると梅干しのようなシワができる
唇を閉じようとすると唇が過度に緊張してしまうため、下あごの先端に梅干しのようなシワが現れます。
2.上下顎前突の原因
上下顎前突の原因は様々ですが、主な原因として次のようなものが挙げられます。
2-1 遺伝によるもの
上下のあごの骨自体が遺伝的に過剰に成長してしまう場合です。ご両親やおじいちゃんおばあちゃんなど、家族の中に上下顎前突の人がいる場合、お子さんにも遺伝する可能性があります。
2-2 口呼吸
子どもの頃からずっと口呼吸をするのが常習化している場合、口で呼吸がしやすいよう、成長期に口が開いたままの状態が続くため、骨格が前方に突出した状態になっていきます。
現在、口呼吸をしている子どもは増えていると言われており、その原因としては、アレルギー性鼻炎、アデノイド肥大のほか、単に癖で口呼吸になってしまっているケースも多くあります。
2-3 おしゃぶり・指しゃぶりなどの癖
おしゃぶりを3、4歳以降になっても使用していた場合や、指しゃぶりをある程度大きな年齢になってもやっていた場合には、骨格の形成に影響が出て、上下の顎が前に出てしまうことがあります。また、舌で歯を前に押すような癖も、同様に上下の歯や顎を前方に押し出してしまうことがあります。
2-4 唇の筋肉が弱い
唇の筋肉(口輪筋)が弱い場合、舌で押される力の方が勝ってしまい、前に顎や歯が出てしまうことがあります。
3.上下顎前突の治療方法
上下顎前突は、矯正歯科で治療が可能です。大人になってからでも治療は可能ではありますが、他の不正咬合と同様、できるならばあごの骨の成長が盛んな子どもの時期に矯正治療を開始するのがいろいろな面において望ましいと言えるでしょう。
3-1 成長期以降に矯正する場合、外科矯正が必要になることも
上下顎前突は、成長に伴い、上下の顎がより前方に出てくる傾向があります。そのため、成長期以降で既に骨の問題が大きくなりすぎてしまっている場合には、通常の歯列矯正だけでは突出感が改善せず、あごの骨を切って引っ込めて行う「外科矯正」というものが必要になることもあります。
3-2 子どもの時期に行うことで抜歯矯正や外科矯正が避けられる可能性も
上下顎前突の治療は、成長段階にある子どもの時期に行うことにより、骨の過剰な発達を抑制しながら、歯並びを整えていくことが可能です。その結果、前に出過ぎた歯を引っ込めるために歯を間引いて歯列を整える「抜歯矯正」や、あごの骨を切って歯を並べる「外科矯正」を避けられる可能性があります。
抜歯矯正では、通常上下左右の第一小臼歯(前から4番目の歯)を4本抜くことが多いので、これが避けられることにはとても大きなメリットがあります。また、あごの骨を切る手術には、手術のリスクも伴うため、できるならば避けたいものです。
理想的なのは、お子様の成長期のピークに達する前に早くから小児矯正を開始し、下あごの成長が終わるまで経過観察を続けていくことです。下あごの成長は、身長が伸びている間は行われるので、それが目安となります。
3-3 子どもの上下顎前突の治療方法
◆MFT
上下顎前突の原因が、口の周りの癖による場合があります。このような場合、口の周りの癖を取り除き、筋肉を正しく使えるような訓練をすることで、お子さんの正常なあごの骨の発育へと導くことができます。
◆小児矯正
取り外し式の装置など、簡単な装置を使ったあごの骨の発育をコントロールしながら行う矯正治療です。これを行うことにより、骨格の問題をできるだけ起こさないようにすることができます。
◆ワイヤー矯正
小児矯正で改善が不十分な場合には、歯の1本1本に装置をつけ、ワイヤーを固定するワイヤー矯正が必要になることもあります。
◆マウスピース矯正
透明なマウスピース装置を使った矯正治療で治療が可能なケースもあります。
4.上下顎前突がもたらすリスク・悪影響について
上下顎前突につきものの「口ゴボ」は、見た目が気になってしまう、という審美的な悩みを抱えてしまうケースが多いですが、そのほかにも、放置しておくことで、次のようなさまざまなリスクや悪影響があります。
4-1 虫歯・歯周病のリスク増加
唇が閉じにくいため、口の中が乾燥気味になります。そうすると唾液の自浄作用や殺菌作用が働きにくくなり、虫歯や歯周病のリスクが高くなります。
4-2 精神面への影響
見た目に自信が持てず、コンプレックスを抱えてしまい、引っ込み思案、消極的な性格になってしまうことがあります。
4-3 口臭が起こりやすい
唇が閉められずお口が乾きがちだと、口内が洗い流されにくくなりますので、細菌が繁殖し、口臭が強くなってしまいがちです。また、歯周病の問題も起きやすくなるので、そのせいで口臭がさらにひどくなることがあります。
4-4 歯に色がつきやすい
歯が露出して乾いた状態になることで、飲食物の色が着色しやすい傾向があります。
4-5 風邪をひきやすい
上下顎前突では口呼吸をしているケースが多いですが、口呼吸の場合、鼻呼吸と違い、鼻毛や分泌液などによるフィルターがないため、ウイルスやホコリなどが直接喉に到達してしまうため、風邪やインフルエンザなどのウイルス感染症にかかりやすくなります。
5.まとめ
上下顎前突の状態では、口元が前方に突出してしまいますので、見た目のコンプレックスを抱えるリスクが高いことに加え、将来的に口臭を起こすリスク、歯の健康、体の健康も損ねやすくなるリスクもあります。
ご両親や、家族に上下顎前突の人がいる場合、お子さんが遺伝的に上下の顎が同様に前に出てしまう可能性が出てきますが、遺伝的な骨格の問題がある場合でも、骨格の成長段階で早めに矯正治療で対処することで、骨格の過度な成長を抑えることが可能です。
成長期段階にあるお子さんのうちに矯正治療を始めることで、将来的に抜歯をして矯正する必要性や、あごの骨を切って矯正する必要性を確実に減らすことができるのは、非常に大きなメリットだと言えます。
そのため、お子さんに上下顎前突の兆候が見られる場合、早めに矯正歯科に相談し、必要に応じてできるだけ早めに矯正治療を始めることをおすすめします。
この記事の監修者
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