血栓症の方が歯科治療を受診する際に注意してほしいこと
血栓症は詰まる場所によって命にかかわることがあるので、その予防のために血液をサラサラにする薬を飲んでいる方もいることでしょう。そしてこのような方は歯科治療を受ける際に注意が必要になる場合があります。
今回はそのような血液をサラサラにする薬を服用している方が安全に歯科治療を受けていただくために注意していただきたいことをわかりやすくまとめましたので、ぜひ最後までお読みください。
1.血栓症とは
血栓症とは、血液中でできた血の塊である「血栓」が血の流れを止めてしまうことが原因で起こる病気です。血管内で血管の流れがせき止められると、その先の細胞に栄養が行かなくなることによって細胞が壊死するなどし、その結果さまざまな機能障害が起こります。
1-1血栓症の症状
血栓ができた時点ではとくに症状を起こしませんが、それが血管内で詰まると、その場所によってさまざまな症状を引き起こします。
代表的な血栓症とその症状をご紹介します。
◆心筋梗塞
血栓により心臓の血管が詰まってしまう病気です。
心臓の筋肉に血液が届かなくなると心臓の機能が低下、壊死して危険な状態に陥ります。
<主な症状>
- 胸が締め付けられるように痛い
- 非常に強い痛みにより冷や汗が出る
- 左腕や背中への痛みの範囲が広がる
- 呼吸困難
- 強い疲労感を感じる
- 嘔吐
- 意識を失い死に至ることもある
◆脳梗塞
脳の血管に血栓で詰まると脳梗塞を起こします。
脳の細胞に酸素や栄養が届かなくなることで脳細胞が壊死し、脳の機能が失われていき、さまざまな障害をもたらします。
<主な症状>
- 片方の手や足に起こる、麻痺、しびれ
- ろれつが回らなくなる、言葉が出なくなる
- ふらつき
- 激しい頭痛
- 視野の半分が欠ける
◆肺塞栓症
体のどこかで形成された血栓が血流に乗って肺に流れつき、肺の血管を塞ぐことで起こります。下半身の深部静脈にできた血栓が原因となることが多いです。
<主な症状>
- 呼吸が苦しい、呼吸困難
- 胸の痛み
- めまい
- 冷や汗
- 動悸
- 発熱
- 咳
- 意識喪失
◆深部静脈血栓症
主に下半身の深い部分の静脈に血栓ができます。
肺塞栓症を起こす前段階とも言えます。
長時間座ったままなど、同じ姿勢でいると、血液の流れが悪くなって血栓が形成されやすくなり、リスクが高まります。
<主な症状>
- 脚のむくみ
- 脚のだるさや痛み
- 皮膚が赤黒く変色
- こむら返り
- 脚の皮膚のかゆみ
1-2血栓症の原因
心筋梗塞や脳梗塞など、動脈に血栓が詰まることによって起こる病気の原因としては、動脈硬化や不整脈、弁膜症、血管炎、脱水症状といったものがあります。血液がドロドロになっていたり、血液の流れが滞っていたりすることで血栓が形成されていきます。
一方、肺塞栓症や深部静脈血栓症のような静脈が詰まる静脈血栓症の場合、長時間同じ姿勢のままでいることや、ギブスを長期間固定している、といったことで起こりやすくなります。また、妊娠や肥満、心疾患によっても起こることがあります。
2.抗血栓薬と歯科治療との関係
2-1抜歯などの出血を伴う治療に要注意
血栓が詰まる病気は命の危険と隣り合わせであるため、血栓症のリスクのある方には抗血栓薬と呼ばれる「血液をサラサラにする薬」が処方されます。
この薬を飲むことで、心筋梗塞や脳梗塞、肺塞栓症などの原因となる血管の詰まりのリスクを下げることが可能です。
ただし、このような薬には当然ながらリスクもあります。
これらの薬を飲んでいる時には、血が固まりにくくなっているので、出血した際に止まりにくくなる、といったことが起こるためです。
歯科治療では抜歯やインプラント手術などの出血を伴う治療がありますので、抗血栓薬を飲んでいる方はこのような治療の際には出血のリスクに十分な注意を払い、慎重に対応していく必要があります。
2-2抜歯の際には抗血栓薬は止める?止めない?
歯科治療でも、むし歯治療などの場合にはほとんど出血することはないので、抗血栓薬を飲んでいても問題にはなりません。
ただし、出血を伴う抜歯やインプラント手術の場合、血が止まりにくくなりますので、かつては手術前に抗血栓薬の服用をいったん中止してから臨むということが行われていましたが、現在では中断することなく行うのが一般的になっています。
なぜなら、抗血栓薬を中断して抜歯や手術を行うと、血栓症を起こすリスクがあるという研究発表が出たためです。
また、抗血栓薬を止めずに抜歯や手術を行っても、適切な止血処置をすれば合併症の危険性は少ないとされていることもあり、現在ではごく一部の例外を除き、抗血栓薬を服用したまま処置を行うのが通常です。
3.血栓症の方が歯科治療を受ける際に注意してほしいこと
血栓症のリスクがあり、抗血栓薬を飲んでいる人は、そうでない人に比べて歯科治療においてはとくに注意が必要になります。
血栓症のリスクのある方が歯科治療を受ける際には、次のことに注意してください。
3-1歯科を受診する際にはお薬手帳を忘れない
抗血栓薬を服用している人は、歯科を受診する際にお薬手帳を必ず持っていくようにしましょう。抗血栓薬にもいくつか種類がありますし、複数飲んでいる場合もあるので、ただ飲んでいる事実を伝えるだけではなく、安全のためにも薬の名前が記載されているものを歯科医師に見せる必要があります。
また、歯科医師が医科の担当医に病状や薬について確認を取ることがありますので、かかりつけの医療機関と医師の名前も伝えておくようにしましょう。
3-2抗血栓薬を勝手に中止しない
抜歯などの出血をする処置を控えているからといって、抗血栓薬を独断で事前に中止するのはやめましょう。
一昔前までは出血する処置の前には抗血栓薬を一旦中止するということが良くありましたが、現在では一部の例外を除き、中止しないのが一般的になってきています。
ただし、これは個々の状況にも違い、必要な場合には歯科医師が担当医師に確認を取って慎重に進めていきますので、「以前は服用を止めていたから」と勝手に判断せず、歯科医師に前もって相談をしておきましょう。
3-3治療が予定通りいかないこともある
むし歯治療や簡単な歯石取りなどの場合には、抗血栓薬を飲んでいても通常の歯科治療は可能です。
ですが、抜歯やインプラント手術などの出血を伴う処置では、抗血栓薬をやめなくても、止血処置を十分に行うことで特に問題になることはありません。
ですが、複数の抗血栓薬を服用している場合や、薬の効果が強い場合には、止血困難が予測される場合もあり、担当医の判断で歯科治療を見送ることもあります。
4.まとめ
抗血栓薬を服用している方、もしくはご家族の方が抗血栓薬を服用している、という方もいるでしょう。この薬はとくに高齢になるにつれて服用している人は多くなってきます。
血栓症は命にかかわる事態にも発展しかねない要注意の状態ですが、抗血栓薬を服用することで脳梗塞や心筋梗塞、肺塞栓といった重篤な病気を防ぐことができます。
ですが、この薬を飲むことで血が止まりにくくなるということは避けられない事実であり、出血する処置の少なくない歯科治療では十分な注意を払うことが欠かせません。
そのため、抗血栓薬を服用している方、もしくは身近にそのような人がいるという方は、
今回の注意事項を頭の片隅に置いておいていただき、歯科治療を受ける際の参考にしてみてください。
この記事の監修者
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