糖尿病と歯周病・むし歯の深い関係と合併症について

糖尿病と歯周病・むし歯の深い関係と合併症について
前回のコラムでは、糖尿病治療中の方は歯科治療の際に感染を起こしやすい、血糖値の変動が起こりやすいといったリスクがあり、注意点や対策が必要であるということを解説しました。

実は糖尿病にかかっている人は、それだけでなく、歯周病やむし歯のリスクが上がりやすいので、そういった面での対策も必要になってきます。

対策することばかりで面倒だなと思ってしまうかもしれませんが、なんと、お口の方の対策をしっかりと行うことにより、糖尿病の状態を改善できる可能性があるのです。

そこで今回は、

  • 歯周病は糖尿病の合併症なのか?
  • 糖尿病と歯周病との関係
  • 糖尿病とむし歯との関係
  • 口腔ケアが糖尿病に与えるポジティブな影響

 

についてご紹介していきます。
糖尿病をお持ちの方、もしくはご家族に糖尿病の方がいるという方はぜひ参考にしてみてください。

 

1.歯周病は糖尿病の合併症なの?

 

糖尿病はそれ自体が直接命にかかわる病気ではありませんが、自覚症状に乏しく、気づかれずに放置されてしまうと進行して合併症を引き起こします

糖尿病の恐ろしいところは、その合併症にあります。合併症を発症してしまうと、治療が困難になってしまいます。
そのため、普段から血糖値をコントロールすることがとても重要になってきます。

実は歯周病も糖尿病の合併症の一つに数えられています。
糖尿病の合併症としては次のようなものが知られています。

 

1-1網膜症

高血糖の状態が続くと、目の網膜の毛細血管の障害を引き起こし、ものが見えにくくなっていきます。自覚症状のないまま進行して末期になると失明することもあるので、定期的に眼底検査を受けることが大切です。

 

1-2神経障害

血糖が高い状態が続くことにより神経の働きも障害されてしまいます。
現れる症状としてはまず、足のしびれや冷え、つりなどが起こり、ひどくなると足の神経が麻痺して感覚低下、足の潰瘍、最悪の場合には壊疽を起こして足を切断しなければならなくなることもあります。

自律神経の障害が起こると、立ちくらみや排尿障害、下痢、便秘なども起こります。

 

1-3腎症

高血糖が続くことにより、腎臓の非常に細い血管がむしばまれていきます。
その結果、蛋白尿やむくみが現れます。
病状が進行すると、慢性腎不全を起こして老廃物を尿として排泄する腎臓の機能が障害されてしまうため、最終的には人工透析が必要になることがあります。

この合併症も自覚症状なしに進行していきますので、早期発見のためにも定期的に腎機能の検査を受けることが大事です。

 

1-4動脈硬化

高血糖が続くと徐々に動脈硬化が進み、心臓病や脳梗塞、脳卒中などの原因になります。高血圧や脂質異常症、肥満、喫煙といったことも動脈硬化を進めやすくする要因になります。

糖尿病、高血圧、脂質異常症、肥満が合併すると、動脈硬化の進行が加速し、心臓病や脳卒中を起こす危険が大きく高まるため、生活習慣を見直していくことが大事です。

 

1-5歯周病

高血糖が続くと歯の周囲組織にある血管ももろくなります。この状態が放置されてしまうと歯周病が進行しやすくなってしまい、歯を支えている骨が溶かされて、歯を失う原因となります。

 

2.糖尿病と歯周病はどんな関係があるの?

2.糖尿病と歯周病はどんな関係があるの?

実は糖尿病と歯周病には特に密接な関係があり、糖尿病から歯周病を引き起こすという一方向の作用のみではなく、それぞれがお互いに作用し合うということが分かっています。

具体的に両者がどのような作用を及ぼし合っているのかを見てみましょう。

 

2-1糖尿病から歯周病への影響

上でご紹介したように、歯周病は糖尿病の合併症として起こってくることがあります。血糖値が高い状態が続くことで血管がもろくなってしまい、炎症状態が続いて組織が壊されやすくなること、そして免疫力が落ちてしまうことで細菌感染を起こしやすくなることから、歯周病によるトラブルがかなり起きやすくなります。

また、それに加えて、血糖が高い状態が続くと、体は濃くなった血液を薄めようとして細胞から水分を集めようと働くため、口の中が乾いてしまい、口の中の自浄作用が落ちてしまうことも歯周病の悪化を加速させます。

糖尿病の検査値の指標であるヘモグロビンA1cが7%を超えると歯周病の悪化が早まるので適切にコントロールすることが大事です。
また、糖尿病になると傷の治りも悪くなるので、歯周病治療をしたとしてもなかなか治療結果が現れず、みるみる悪くなってしまうということも少なくありません。

 

2-2歯周病から糖尿病への影響

逆に、歯周病が糖尿病を悪化させるということも分かっています。
そのメカニズムとして、歯周病にかかっていると、歯周病菌が放出する炎症性物質が出血部位から血管内に入りこみ、血糖を調整する働きをするインシュリンというホルモンの働きを阻害する、ということが言われています。

実際に、歯周病治療を継続していくことで糖尿病の状態が改善したという例が数多く報告されており、歯周病治療をすることが糖尿病の改善につながる可能性が高いということが言えるでしょう。

 

3.糖尿病とむし歯はどんな関係があるの?

3.糖尿病とむし歯はどんな関係があるの?

糖尿病は歯周病と特に関係が深いことが注目されていますが、糖尿病にかかっていると、むし歯のできやすさにも影響を与えると考えられます。
その理由として、次のようなことが挙げられます。

 

3-1口内が乾く

糖尿病になると血液の濃さを調整するために細胞から水分が吸収されてしまいますので、口の中が乾いて本来働くべき唾液の作用がうまく働かなくなってしまいます。

唾液は消化酵素としての役割だけでなく、口内を洗浄したり、むし歯になりかけたところをミネラルで補修したり、酸性に傾いた口内を中和したりなど、むし歯ができにくくする働きも担っています。

これらの作用が失われてしまうことで、歯はより多くのリスクにさらされることになり、結果的にむし歯ができやすいということになってしまいます。

 

3-2歯周病による二次的な影響

糖尿病にかかっていると歯周病が進行しやすくなり、その結果、歯茎が下がって歯根がだんだんと露出していきます。歯根の表面は硬いエナメル質に覆われていないため、むし歯に対する抵抗性が低く、わりとすぐにむし歯ができてしまう傾向があります。

 

4. 口腔ケアが糖尿病に与えるポジティブな影響

 

研究によると、糖尿病の人の7~8割くらいが歯周病にかかっているといわれています。また、歯周病にかかっていると細菌感染に対しての抵抗力も落ちてしまうので、歯周病の場所から血管を通じて全身に重度の感染症を引き起こしてしまうリスクもあります。

一方で、毎日の口腔ケアを丁寧に行い、歯周病治療をしっかりと行っている人は血糖値のコントロールがしやすくなるという事象も実際にたくさん報告されています。

つまり、糖尿病の方は、お口の清潔をできるだけ保っていくことで、歯周病からの二次的な感染症を防げるだけでなく、糖尿病自体の進行も抑えて病状を改善できる可能性があるのです。

 

5.まとめ

 

以上ご紹介したように、歯周病と糖尿病には切っても切れない深い関係があります。両者に共通する特徴として「自覚症状が出にくい」ということがあり、ともに、本人が病気そのものを自覚しておらず、適切な対策や治療がなされていない、ということがよくあります。

その結果、さらなる病状の悪化を招き、もう片方の病気にも影響を与えている可能性もあると言えます。

歯周病も糖尿病も、そのほとんどが生活習慣病であり、成人以降多くの人がその影響を受けています。

まずは「何も症状を感じていないから」と油断せず、定期的に検診を受け、自分の体の状態を知る、そして異変があれば軽度の段階で対処するということが大事です。

ぜひ今からでも意識して取り組んでみてください。

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この記事の監修者

医療法人幸美会 なかむら歯科クリニック 理事長・院長 歯科医師 中村 幸生

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