糖尿病治療中の方が歯科治療を受ける際に注意してほしいこと
糖尿病にかかっている人は日本においても世界においても増加傾向にあり、日本では国民の1-2割が糖尿病、そしてその予備軍だと言われているように、糖尿病はいわば、国民病ともいえるような身近な病気になっています。
実際に、ご自身、もしくはご家族が現在糖尿病の治療を受けている、もしくは健康診断で糖尿病との診断を受けた、という方もいるのではないでしょうか。
実は、糖尿病の人は歯科治療において通常よりも感染や血糖値の変動のリスクがあるため、いろいろと注意しなければならないことがあります。
今回は、
- 糖尿病治療中の方が歯科治療を受ける際の4つのリスク
- 糖尿病治療中の方が歯科治療を受ける際に気を付けたいこと
- 糖尿病治療中の方が歯科治療前後に注意するべきこと
について解説していきます。
ぜひ参考にしてみてください。
1.糖尿病治療中の方が歯科治療を受ける際の4つのリスク
糖尿病にかかっている人でも、血糖値が適切にコントロールされていれば歯科治療は可能です。
ですが、糖尿病の患者さんは一般的に、 歯科治療時に次のようなリスクがあるので注意が必要です。
1-1感染を起こしやすい
血糖が高い状態が続くと、糖化反応というものが起こり、血管が傷ついて炎症が起きます。そして、その部分を修復するためにコレステロールなどが蓄積されて血管の内側の壁が厚くなり、結果的に血流が悪くなります。
そうすると、細菌が入りこんだ部分に血液が行きわたりにくくなり、免疫に働く白血球も働きにくくなってしまうため、感染症にかかりやすくなってしまいます。
歯科治療では歯石除去や抜歯など、出血を伴う治療が多く、その際に傷口から細菌が血管の中に入って菌血症(全身に炎症が広がる状態)を起こす恐れもあります。
1-2傷が治りにくい
高血糖の状態では、白血球の機能が低下しますので、傷口の治りが遅くなります。つまり、歯周病などの炎症が起こった場合になかなか治りにくく重症化しやすくなりますし、歯周病の治療や抜歯をした後にもなかなか治らず、治癒不全を起こすことがあります。
1-3血糖値が変動しやすい
歯科治療においては、麻酔や治療によるストレスによって血糖値が変動しやすくなります。また、歯科治療で型取りの際などに吐くのが怖くて空腹の状態で来院する人がいますが、この際に糖尿病治療薬を通常通り服用していると血糖値が下がりすぎてしまい、治療時に低血糖発作を起こして危険な状態になることがあります。
1-4出血リスクが高い
糖尿病を患っている人は高血圧を合併していることも多く、適切にコントロールされていないと、出血のリスクが高まります。
とくに心疾患や脳血管障害の合併症のある方の場合、血液の流れをよくするようなお薬を服用していることが多く、そのような場合には抜歯などの出血が起こる処置においてはさらに注意が必要です。
2. 糖尿病治療中の方が歯科治療を受ける際に気を付けたいこと
糖尿病治療中の方が歯科治療を受ける際には、安全に治療が進められるように、以下のことに注意してください。
2-1糖尿病であることを必ず歯科医師に伝えておく
糖尿病の既往のある方は、現在治療中の場合も、現在治療を受けていない場合でも、問診の際に必ず歯科医師にその旨を伝えるようにしましょう。
その際、飲んでいる薬の名前、かかりつけの医科の医療機関名、担当医師名なども伝えるようにしてください。
また、服用中の薬や糖尿病の状態を正確に歯科医師に伝えられるよう、お薬手帳や糖尿病連携手帳も持参するようにしましょう。
これは糖尿病だけに限ったことではなく、他の持病がある場合でもご自身の健康状態について担当歯科医師に正しく伝えておくことが大事です。
歯科医師が患者さんの健康状態を把握しておくことで十分に安全面に配慮して治療を進めていくことができますし、いざという場合に医科の担当医と連絡を取り、適切な対処をしやすくなります。
2-2空腹の状態での治療は避ける
糖尿病の方は空腹の状態で治療を受けると、低血糖発作による糖尿病性昏睡を起こす危険性があります。
また、麻酔をする場合には治療後にもしばらく食事がとりにくくなりますし、治療後に痛みがある場合にも同様で、すぐに食べられなくなる可能性があります。
そのため空腹状態で治療を受けるということは避け、治療前には食事をしっかりと摂っておくことを忘れないようにしましょう。
2-3糖尿病の薬はいつも通り内服する
歯科治療というのは、個人差もありますが、緊張やストレスを感じやすいものです。
血糖値は、ストレスや麻酔の影響で上昇しやすくなりますので、糖尿病の薬はいつも通り忘れずに内服しておくようにしましょう。
2-4低血糖発作の場合に備えて糖分を持参しておく
糖尿病の方は、万が一低血糖発作が起こった時のために、飴などの糖分補給ができるものを常に携帯しておくようにしましょう。
そして、もしも治療中に冷汗、動悸、手指の震え、頭痛、生あくび、けいれん、目のかすみなど、低血糖症状を自覚した場合にはためらわずにすぐに歯科医師に伝え、すみやかに糖分を摂取するようにしてください。
2-5感染防止のために抗菌薬を指示通りに服用する
糖尿病の患者さんは感染を起こしやすいため、出血する可能性のある処置の際には、抗菌薬を服用する必要があります。
糖尿病の状態によっては抜歯前などに予防的に抗菌薬を服用していただく場合もありますので、薬の服用の仕方に関しては歯科医師の指示を守るようにしてください。
3.糖尿病治療中の方が歯科治療前後に注意するべきこと
3-1歯科治療前の注意事項
◆基本事項を守る
歯科治療前の注意事項としては、基本的に、上で挙げたように、
- ご自身の糖尿病の状態や服薬内容について歯科医師に伝えておくこと
- 空腹のまま治療を受けないこと
- 糖尿病の薬は通常通り服用しておくこと
- 念のために飴など糖分を携帯しておくこと
- 事前に抗菌剤の服薬の指示がある場合には守ること
といったことを守るようにしましょう。
◆糖尿病の状態によってはすぐに治療が受けられないことも
また、糖尿病のコントロールがしっかりとできていない方の場合、抜歯などの出血が起こる処置は、危険を回避するためにすぐに治療が行えない場合があります。
その場合には主治医に連絡を取って治療の可否を問い合わせる、もしくは、必要に応じて全身管理施設の整った大学病院や総合病院などでの歯科治療を受けていただくことになる場合もあります。
3-2歯科治療後の注意事項
糖尿病をお持ちの方は、歯科治療後、もし次のような状況になった場合、念のため歯科医院に連絡をしましょう。
- 高度の発熱や寒気がある
- 食事がとれない
- 症状がいつまでたっても改善せず悪化している
- のどが異常に渇く
- 尿の回数が急に増えた
- 処方された抗菌薬をとるのを忘れてしまった
4.まとめ
以上ご紹介したように、糖尿病患者さんは感染症のリスクや重症化の懸念があり、注意が必要ではあるものの、適切に血糖がコントロールされていればリスクを下げることができ、歯科治療も可能になります。
大事なことは、歯科医に正確に糖尿病の状況を伝えること、ご自身でもリスクを知り、いざという時に対処できるようにしておくことです。
なお、糖尿病で怖いこととして、さまざまな合併症を引き起こす、という一面がありますが、実は口の中にも合併症の影響が現れ、歯の寿命まで左右することになります。
また、それだけでなく、お口のケア状態が糖尿病の状態を左右するという、逆の関係があることも分かっています。
このようにお口の状態と糖尿病は切っても切れない深い関連性があります。
次回は、糖尿病と歯周病、虫歯との深い関係について詳しくご紹介していきますので、ぜひそちらもご覧ください。
この記事の監修者
こちらの記事もおすすめ!