歯周病の予防と糖尿病や全身疾患の関係とは

歯周病の予防と糖尿病や全身疾患の関係とは
歯周病というと、「歯茎が腫れる」とか「歯が抜け落ちてしまう病気」というイメージがあるかもしれません。確かに、一昔前までは、歯科医師の間でもそのような認識しかありませんでした。

 

ですが、だんだんと歯周病が単なる歯茎の病気ではなく、糖尿病と深い関係があるということ、またそれだけではなく、命に関わるような全身疾患のリスクを高めることが、近年、次々に解明されてきました。

 

今回は、特に関連が深いと言われている歯周病と糖尿病について、また、歯周病が引き起こしうる全身疾患についてご紹介します。

 

1.歯周病と糖尿病の因果関係とは?

 

1.歯周病と糖尿病の因果関係とは?

 

1-1糖尿病とはどんな病気?

 

糖尿病というのは、血液中のブドウ糖(血糖)が増え続けて高血糖の状態になる病気のことで、それによって血管や血液の状態が悪くなり、様々な合併症を引き起こします。

 

通常は、膵臓から出されるインスリンと呼ばれるホルモンによって、血糖値が高くならないように調整されていますが、何らかの原因によってインスリンが上手く分泌されなかったり、分泌されても働きが低下してしまったりすると、高血糖状態となり、それが慢性的になると、「網膜症」「腎症」「神経障害」といった、三大合併症が起こってきます。また、進行すると、失明や腎不全、下肢の切断にまで至ることもあります。

 

厚生労働省が発表した調査によると、現在、予備軍も含めると、日本の成人の5〜6人に1人が糖尿病であるとされています。

 

1-2歯周病は糖尿病の合併症の一つ

 

糖尿病は、目の問題、腎臓の問題、神経の問題だけでなく、脳卒中や心筋梗塞のような動脈硬化から起こる病気の発症や進行にも関わっていることがわかっています。また、免疫力を下げてしまうことから、歯周病にもかかりやすくなり、歯周病も糖尿病の合併症の一つに数えられています。

 

1-3歯周病が糖尿病を引き起こす「逆の関係」も明らかに!

 

上でご紹介したように、歯周病は糖尿病の合併症の一つでもありますが、最近になって、歯周病にかかっている人が糖尿病を引き起こしたり、悪化させたりするという、逆の関係もあることがわかってきました。

 

歯周病が悪化した状態を放置していると、歯周病菌は歯茎の毛細血管を通して、血液中に入り込みます。そうすると、歯周病菌は、インシュリン抵抗性の(インシュリンの働きを邪魔する)炎症性物質を放出して、体は血糖調整ができなくなってしまい、糖尿病を発症、悪化させてしまいます。

 

医療の現場でも、ひどい歯周病を治療した結果、糖尿病が改善するというケースは多く報告されています。このように、歯周病と糖尿病はお互いに深く影響しあっています。

 

2.歯周病と全身疾患の因果関係とは?

 

2.歯周病と全身疾患の因果関係とは?

 

歯周病が関わる全身疾患で最も代表的と言えるのは糖尿病ですが、歯周病は、それ以外にも、歯周病菌が血管や呼吸器、消化器に入り込むことで、次のような病気の発症にも関わっていることがわかっています。

 

2-1心疾患

 

歯周病菌やその病原因子が、血管内で動脈硬化を引き起こす物質を出して血管を狭くしてしまったり、血栓を作ったりすることで、血管が詰まり、狭心症や心筋梗塞を引き起こすことがあります。

 

また、歯周病菌が血管を通じて心臓の心内膜や弁に付着し、そこで細菌が増殖すると、感染性心内膜炎を起こしてしまうことがあります。

 

2-2脳梗塞

 

狭心症や心筋梗塞が起こりやすくなるように、脳でも同様のことが起こります。歯周病菌が脳の血管の方に行き、血管の内部に付着すると、動脈硬化、そして血栓ができやすくなることにより、脳梗塞のリスクが高まります

 

血圧やコレステロール、中性脂肪が高めの人は、このような病気を特に起こしやすくなるため、より注意が必要です。

 

2-3誤嚥性肺炎

 

高齢になるにつれ、様々な反射機能が衰えてしまいますが、反射の衰えにより、唾液やプラーク(歯垢)に含まれる歯周病菌が誤って呼吸器の方に入ってしまうと、細菌が肺の中で繁殖してしまう「誤嚥性肺炎」を起こす可能性があります。

 

特に、寝たきり状態になっている高齢者においては、この誤嚥性肺炎がトップの死亡原因となっており、問題になっています。

 

2-4胃潰瘍・胃がん

 

歯周病菌は、ピロリ菌(胃潰瘍、胃がんの原因と言われている細菌)と共通する抗原を持っていると言われており、それによって腹痛や下痢、嘔吐を起こす原因になったり、胃潰瘍、胃がんの原因にもなったりすることが報告されています。

 

また、歯周病によって形成された歯周ポケットにピロリ菌が生息しているとも言われており、それが食道から胃へいくことで胃潰瘍や胃がんを引き起こす可能性がある、とも言われています。

 

2-5アルツハイマー型認知症

 

歯周病菌は「酪酸(らくさん)」と呼ばれる物質を作り出し、歯周組織を破壊していきます。この酪酸は血液中にも入り込み、血管から脳にたどり着いて、脳のあらゆるところでダメージを与えていることが研究の結果、わかってきています。この際、記憶を司る「海馬」にダメージが加わると、アルツハイマー型認知症を起こしてしまうリスクがあります。

 

2-6骨粗鬆症

 

歯周病にかかると歯を失いやすくなります。それにより、食べ物を噛む力が弱まってしまいますので、栄養バランスのとれた食事することが難しくなり、それが骨密度の低下につながって骨粗鬆症を起こすリスクが高まります

 

また、女性は、閉経後に女性ホルモンの分泌が急激に減します。そうすると、歯周ポケットの内部で炎症を引き起こす物質が作られ、歯周病が進行少しやすくなると言われています。また、女性ホルモンが減ると骨が脆くなり、骨粗鬆症を起こしやすくなりますので、歯周病による骨の吸収が起こりやすくなります。

 

2-7肥満・メタボリックシンドローム

 

歯周病菌が産生する炎症性物質は、脂肪細胞や肝臓に脂肪をつきやすくするということが、実験で証明されており、肥満やメタボリックシンドロームとの関係が指摘されています。

 

2-8早産・低体重児出産

 

歯周病菌は、血管から胎盤へも移行します。歯周病菌が胎盤に感染すると、胎児に影響を及ぼしたり、歯周病で歯茎の炎症が強くなると、それによって作られる炎症性物質が陣痛を促してしまうことで早産や低体重児出産を引き起こす可能性があると言われています。

 

妊娠中は女性ホルモンの増加などにより、歯周病が悪化しやすいため、特に注意が必要です。

 

3.まとめ

 

歯周病によって引き起こされる、もしくはリスクが高くなる代表的な病気をいくつかご紹介しました。しかし、実際に歯周病が関連していると言われている病気はこれ以外にも次々に見つかってきており、最近ではインフルエンザなどのウイルス感染のかかりやすさにも歯周病菌が関係しているという報告が出てきているなど、歯周病予防、治療の重要性が再認識されてきています。

 

これからもおそらく、歯周病と関連している病気というのは見つかってくることでしょう。

 

歯周病は適切に対処すれば、予防や進行を止めることが十分に可能な病気です。歯周病予防のためには、健康的な生活習慣や食習慣を心がけること、そしてお口の中を清潔に保つことが欠かせません。

 

歯周病は成人の8割がかかっていると言われているため、歳を取ったらかかっても仕方がない病気だと思われていることがありますが、他の生活習慣病同様、心がけ次第で予防は可能です。ぜひ、かかりつけ医と協力しながら歯周病を効果的に予防し、体も健康に保っていきましょう。

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この記事の監修者

医療法人幸美会 なかむら歯科クリニック 理事長・院長 歯科医師 中村 幸生

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