高血圧症の方が歯科を受診する際に注意してほしいこと
このような自覚症状のない病気であるにもかかわらず、なぜ血圧が高いことが問題になるのでしょうか?
実は、高血圧は喫煙と並んで、日本人にとって大きな生活習慣病リスク要因です。つまり、高血圧の状態はさまざまな全身疾患を起こすリスクを高めるため、コントロールをすることが必要になってくるのです。
高血圧の人は歯科治療においても注意が必要になる場合があります。
今回は高血圧の方が歯科を受診する際に注意が必要なことについてご紹介していきます。
1.高血圧とは具体的にどんな病気?
1-1高血圧とは
まず血圧とは、血液が動脈を流れる際に血管の内側にかかる圧力のことです。
心臓が収縮して血液を送り出したときの血圧は「収縮期血圧(最高血圧)」と呼ばれ、一般的には「上の血圧」と言われます。
逆に心臓が拡張したときの血圧は、「拡張期血圧(最低血圧)」と呼ばれ、一般的には「下の血圧」と言われています。
現在の基準では、収縮期血圧が140㎜Hg以上、拡張期血圧が90㎜Hg以上となった場合に、高血圧と診断されます。また、180/110mmHg以上になると「重症高血圧症」と診断されます。
高血圧が問題となるのは、血圧自体が高いことではなく、そこからさまざまな病気を引き起こし、そこから命を失うことがあるという点です。
1-2高血圧の原因
高血圧の最大の原因は、塩分のとりすぎだと言われています。若年者や中年の男に関しては、肥満が原因となっている高血圧も増えています。
それ以外にも、加齢、ストレス、睡眠不足、気温の変化、遺伝、アルコールや運動不足といったことも高血圧の原因になることがあり、通常は複合的な要因が重なって起こります。
2.高血圧症と歯科治療との関連性
2-1歯科治療と高血圧の関係
歯科治療では、歯を削る、歯石を取る、抜歯をする、など歯や歯茎に刺激を加わる処置を行い、時には痛みを伴う治療も行います。また、見えない部分を触られることから不安感や恐怖感を感じがちです。
このようなことから多くの人は歯科治療時のストレスや緊張状態から血圧が上がる傾向があります。
とくに高血圧の人においては、血圧が急上昇しやすくなり、危険な状態に陥る場合があることから、歯科治療を受ける場合には注意を払う必要が出てきます。
高血圧の既往のある人は、問診の際にそのことをきちんと問診表に記入しておくことを忘れないようにしましょう。
2-2高血圧でも歯科治療は受けられます
高血圧であっても、高血圧の薬などにより適切に血圧のコントロールが行われていれば、歯科治療を受けることは可能です。
治療内容によっては歯科治療前に血圧を計測し、コントロールができていない場合には、事前に医科の担当医と連携してまずは血圧を安定させることを優先する場合もあります。
特に、抜歯やインプラントなど、歯茎の切開や骨を削るといった外科処置を行う場合には、麻酔薬の使用や出血のリスクがありますので、より一層の注意が必要になり、必要に応じて血圧の管理を行いながら治療を進めていくこともあります。
3.高血圧症の合併症
高血圧になると、次のような合併症を起こしていることも少なくありません。そのため、歯科治療時には合併症に対しても注意も払いながら治療を進めていきます。
3-1心疾患
◆心肥大
血圧の上昇、動脈硬化が起こると、心臓から血液を送り出すために強い力が必要になってくるため、心臓の筋肉である心筋が発達して太くなってきます。その結果、心臓そのものが大きくなる「心肥大」を起こすことがあります。
心肥大が起こると、息切れや動悸、胸の圧迫感、むくみといった症状が起きやすくなるほか、不整脈や心房細動のリスクも高くなって血管が詰まることもあるため、注意が必要です。
◆虚血性心疾患
これは狭心症や心筋梗塞のことで、心筋に栄養や酸素を送っている血管が詰まるなどして血液が十分にいきわたらなくなり、心筋が壊死してしまうことがあります。
◆心不全
高血圧が続くと心臓に負荷がかかり、それに対応するために心臓の筋肉が肥大します。そうすると、心臓の負担が過剰になってしまい、心不全の症状が現れ始めます。
心不全になると全身の血液の流れが悪くなってしまいます。
3-2脳血管障害
◆脳梗塞
高血圧の状態が続くと血管に負担がかかり、動脈硬化を引き起こします。また、血管壁にプラークと呼ばれる脂の塊がくっつくと血栓が詰まりやすくなり、脳梗塞を起こすことがあります。
◆脳出血
動脈硬化によって脳の血管が硬くなり、血圧が上昇することで、血管が破れて出血することがあります。
3-3動脈瘤
動脈瘤は動脈の壁がコブのように膨らんだもので、動脈硬化が進行することに伴って起こります。動脈硬化は高血圧によっても引き起こされますので、高血圧がある人は注意が必要です。
大動脈瘤が破裂すると突然死に至ることもあります。
3-4眼障害
高血圧は目にも合併症を起こします。最も多いのは高血圧によって網膜に障害をきたす「高血圧性網膜症」です。
高血圧が適切に治療されていない場合、目の損傷が進行し、眼底出血、視力低下、ひどい場合には失明に至る場合があるため、注意が必要です。
3-5腎臓疾患
腎臓内部にある糸球体には細い血管がたくさん集まっています。高血圧により血圧が上昇し、その細い血管がダメージをうけると、血液中にたまった老廃物をろ過することができなくなります。
この状態は「高血圧性腎不全」といい、状況が悪化すると人工透析をしなければならなくなるリスクがあります。
4.高血圧症の方が歯科治療を受診する際の注意点
4-1麻酔薬で血圧が上がりやすい
通常歯科治療で使う歯茎の局所麻酔薬には、麻酔の効きを良くする目的で血管収縮剤が含まれています。
ところが、高血圧の方にこれを使用すると、血圧が一時的に上昇することがあります。
そのため、高血圧の状況によっては、血圧に影響の出ないタイプの麻酔を使うといったことが行われる場合があります。
4-2外科処置で血圧上昇、出血が止まりにくくなるリスクがある
抜歯やインプラントなど、外科処置においてはストレスや痛みが血圧を上昇させ、その結果出血が止まりにくくなるリスクがあります。
そのため、高血圧の既往のある人には治療前に血圧測定を行い、血圧がコントロールされていない場合には手術を見合わせる場合もあります。
4-3不安や恐怖・緊張によって血圧が上がりやすい
歯科治療に対する不安や恐怖、緊張の強い人ではストレスによって血圧が上昇しやすくなります。
特に、高血圧の患者さんの場合、動脈硬化によって血管の柔軟性が失われているため、不安や緊張によって血圧が変動しやすい状態になっています。
そのため、外科処置などリスクが高い処置の場合には、必要に応じて気分を落ち着かせる鎮静剤を投与しながら治療をおこなうこともあります。
5.まとめ
今回ご紹介したように、高血圧の人は歯科治療においてさまざまな場面においてリスクが生じます。
そのため、高血圧のある人は歯科を受診する際に、必ずその旨を歯科医師に伝えておくようにしましょう。もちろん他の病気がある場合にもきちんと伝えておくことが大事です。
歯科医師はその情報を持っておくことで、リスクが伴う処置の場合に適切な対策を行い、最大限に注意を払って安全な状態で治療を進めていくことができます。
血圧が高めの方、そしてご家族に高血圧の人がいる方はぜひ参考にしてみてください。
この記事の監修者
こちらの記事もおすすめ!
関連する記事がありません