訪問歯科で行う口腔ケアとは?要介護者へどんなメリットがあるの?
訪問歯科診療では、歯の痛みや入れ歯のトラブル、歯石除去など、歯科医院で受ける治療内容の多くを自宅にいながら受けることができますが、その中でも特に、口腔ケアというのは訪問歯科診療の中でも重要な役割を果たし、介護が必要な方にとって生活の質を高め、健康を保つために大きな役割を果たします。
今回は、訪問歯科診療で行う口腔ケアとはどういったものか、また、要介護者にとってどのようなメリットがあるのかについてご紹介していきます。
1.訪問歯科で行う口腔ケアとは
1-1口腔ケアとは
口腔ケアというのは、その名前の通り、「お口のお手入れ」という意味です。体が健康で不自由でない人の場合、歯磨きなどのお口のお手入れは、テクニックや知識などにより多少の個人差があるとは言え、自分自身で問題なく行うことができます。
また、お口周囲の筋肉も問題なく働きますので、噛む、飲み込む、話すといった動作は自然に、意識せずとも滞りなく行うことができます。
ところが、老化や病気などにより、筋肉の働きが衰え、体が不自由になると、そういった、これまでに問題なく自分で行うことができていた動作ができなくなってしまい、お口の中が不衛生な状態となって歯や粘膜のトラブルを起こしたり、食べる機能が衰えて栄養不足になったり、誤嚥によって呼吸器の感染症を起こしたりするリスクが高くなります。
このような場合に、訪問歯科の口腔ケアを受けることによって、様々なお口のトラブルを回避し、感染症のリスクを下げて、快適で健やかな毎日を送りやすくなります。
1−2口腔ケアの種類と具体的な内容
訪問歯科で行う口腔ケアには、大きく分けて次の2種類があります。これらのケアを定期的に行っていくことで、要介護の方に起こりがちな、お口の様々なトラブルをできるだけ回避していくことができます。
◆器質的口腔ケア
お口の中をきれいに保つためのケアです。歯のクリーニングや、口内の粘膜についた汚れをきれいに洗い流します。また、介護を行う方に向けて、毎日の口腔ケアの方法、入れ歯の洗い方などのアドバイスを行い、日々のお口の衛生状態が保たれるようにしていきます。
◆機能的口腔ケア
お口の筋力をリハビリするケアです。口周囲の筋力が衰えてしまい、噛む、飲み込むといった食事に必要な機能が低下している場合、また、喋ることが不自由になっている場合に、お口の周囲筋肉のトレーニングをすることで、機能の回復をはかっていきます。
2.口腔ケアがおろそかになると起こってくるリスク
要介護状態では、ご自分でお口のケアを行うことが難しく、介護する人に日々の口腔ケアを頼らざるを得ません。ですが、介護となると、どうしても食事やトイレなどのケアがメインとなってしまいますし、介護する方の口腔ケア知識が乏しく、口腔ケアが不十分になってしまう傾向があり、お口の環境が劣悪になってしまっているケースが少なくありません。
そのような場合、次のようなことが起こってくるリスクが高くなります。
2-1お口の健康状態悪化
お口のケアが不十分になると、お口の中がどうしても不衛生になってしまいます。特に、要介護の方は高齢者が多く、唾液の分泌も落ちていて自浄作用が働きづらくなっていますので、その傾向は強くなります。そうすると、次のようなことが起きやすくなります。
・歯周病による痛み、歯茎の腫れ
・お口の粘膜の炎症、トラブル
・入れ歯が合わずに痛む、外れる、噛めない
・口臭の悪化
2-2体の健康状態悪化
お口の環境悪化により、全身にも次のような影響が及ぶ可能性があります。
◆栄養不足から虚弱に
お口のトラブルがあると、しっかりと噛めなくなり、食事が満足に摂れなくなってしまいますので、栄養不足から虚弱な状態になる恐れがあります。
◆細菌性肺炎のリスクが高まる
ちゃんと噛めない状態が続くと、筋肉が使われないので、口周囲の筋肉が弱っていきます。そうすると、噛むだけでなく、飲み込む力も弱っていきます。飲み込む力が衰えると、誤嚥を起こしやすくなり、食べ物や飲み物が食道ではなく気管の方に行ってしまい、細菌性肺炎を起こす原因になることがあります。
◆認知症のリスクが高まる
歯の問題があってしっかり噛めないと、脳に噛む刺激が伝わらなくなり、認知症のリスクが高くなると言われています。また、歯周病菌が増えることで脳の中アルツハイマーの原因となる物質が蓄積するという研究結果があります。
◆インフルエンザなどの感染症にかかりやすくなる
お口の中に細菌が増えると、インフルエンザなどのウイルスが喉の粘膜中の細胞に入りやすくなる、という研究報告があります。
◆全身疾患のリスクを高める
たとえば、お口の中が不衛生になると、歯周病を発症・悪化させやすくなります。歯周病菌は歯を失う原因になるだけでなく、血管や呼吸器、消化器を通して全身に様々な病気を起こすことがわかってきています。例えば、糖尿病、心臓病、脳梗塞、肺炎といったものが代表的です。
3.訪問歯科で口腔ケアを受けるメリット
訪問歯科診療でご自宅でゆったりと口腔ケアを受けられることは、移動することが難しい患者さんにとって、体力的にも精神的にも大きなメリットがあります。また、それに加えて、定期的に口腔ケアを受け続けることで、次のようなメリットがあります。
3-1歯や歯茎を健康に保てる
お口の環境が良くなりますので、虫歯や歯周病を防ぎ、痛みに悩まされない、快適な毎日を送りやすくなります。
3-2口臭が改善する
お口のケアが行き届いていないと、口臭がひどくなり、本人だけでなく、周囲の人も不快な思いをしてしまいます。訪問歯科で口腔ケアを定期的に受け、介護者の方にも口腔ケアの知識を身につけていただくことにより、介護される側もする側も気持ちよく過ごすことができます。
3-3入れ歯も快適に使える
お口の中が不潔な状態が続くと、お口の中にカンジダ菌が繁殖し、義歯性口内炎を起こしやすくなります。この状態になると、入れ歯を入れると痛みが出るので入れ歯が使えず、お食事も満足にとれなくなり、健康状態の悪化が懸念されます。このようなことも、口腔ケアを受けておくと起こりにくくなります。
3-4全身疾患のリスクが減る
お口の細菌環境が整うことで、糖尿病や心疾患、脳梗塞など、口の中の細菌が全身に悪さをするリスクが低くなります。
3-5認知症のリスクを減らせる
お口の健康が保たれ、よく噛むことができるので、脳に刺激が伝わり、認知症になるリスクを低くすることができます。
4.まとめ
お口の環境というのは、歯・歯茎の健康状態だけでなく、全身の健康とも大きく関係しています。そのため、お口の環境を整えることは、食事や入浴、排泄と同等に重要視される必要があります。
訪問歯科診療では、ご自宅にいながら、歯科医院で行う治療とほぼ同等の治療を受けることができます。また、口腔ケアを定期的に受けることで、お口の健康、体の健康を保ちやすくすることができ、未然に様々なトラブルを防ぐことにもつながります。
もし、要介護の方がご自宅にいらっしゃる場合、要介護の方が毎日を生き生きと、快適に、生活の質をなるべく落とさず過ごしていけるようにするためにも、ぜひ、訪問歯科診療を検討されてみてはいかがでしょうか。
この記事の監修者
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