口腔ケアで誤嚥性肺炎を予防する方法
寿命を縮めてしまう原因にもなる誤嚥性肺炎ですが、口腔ケアをしっかりと行うことで予防をし、健康寿命を伸ばすことも可能です。
今回は、誤嚥性肺炎を予防する方法、そして口腔ケアを行うことによる様々なメリットについてご紹介します。
1.誤嚥性肺炎とは
1-1「誤嚥」とは
「誤嚥」というのは、唾液や食べ物が本来行くべき食道の方向ではなく、呼吸器(気管・肺)の方へ行ってしまうことを言います。
通常だと、誤嚥を起こしたとしても反射機能により咳が出て、排出されますが、反射機能が弱ってしまうと、異物はそのまま肺の方に入って行ってしまいます。歳をとるにつれて反射機能はだんだんと衰えてしまうため、高齢者ほど誤嚥が起こりやすくなります。
1-2「誤飲」との違い
誤嚥と似た言葉に「誤飲」がありますが、これは、主に小さな子供によく起こるもので、「飲み込んではいけないものを誤って飲み込んでしまうこと」を言い、高齢者に多い誤嚥とは全く意味が異なります。
1-3誤嚥性肺炎とは
誤嚥性肺炎というのは、気管の方に異物が入ってしまうことで起こる肺炎のことで、65歳以上の高齢者に多くみられる疾患です。初期のうちは症状が軽いので、気づかれずに進行するケースも多いのですが、悪化すると命を落とすことも少なくないため、十分な注意が必要です。
誤嚥性肺炎は、ものを飲む時、食べる時の誤嚥がきっかけとなることが多いですが、眠っている間に唾液を誤嚥することでも起こることがあります。
1-4 歯周病菌が原因になっていることが多い
誤嚥性肺炎を起こす原因として、歯周病菌をはじめとする口腔内細菌の関連が疑われています。唾液中に含まれる歯周病菌が、食事中や睡眠中に誤嚥により肺の方に入ってしまい、肺炎を起こしてしまうのです。
歯周病は、成人の8割がかかっていると言われている病気であり、高齢者に関してはほぼ全ての人がかかっていると言っても過言ではないでしょう。
そんな中で、適切なお口のケアがなされていないと、誤嚥が起こった際に誤嚥性肺炎を起こすリスクというのは非常に高くなってしまうと考えられます。
特に、高齢者の場合には体力や免疫力が低下しているのに加え、反射機能も落ちているので、誤嚥性肺炎を起こすリスクは高いと言えるでしょう。
1-5誤嚥性肺炎の症状
肺炎というと、高熱や咳などの症状を起こすイメージがありますが、誤嚥性肺炎では典型的な症状が現れにくいのが特徴で、見逃してしまいがちです。
誤嚥性肺炎を起こしている場合に起こってくる症状としては、
・喉がゴロゴロ鳴っている
・元気がない
・呼吸が浅く、速い
・食欲がない
また、せん妄状態など、話す内容や行動など、意識の混乱状態が見られることもあります。
2.誤嚥性肺炎を予防する方法
誤嚥は、加齢による反射機能の低下によって起こりやすくなるのはある程度仕方のないことです。ですが、いざ誤嚥が起こった時に肺炎を引き起こす原因となる細菌や食べかすをできるだけ減らす、といったようなことで、肺炎になるリスクを減らすことができます。
2-1口の中を清潔に保つ
誤嚥性肺炎のリスクを下げるためには、それを起こす原因となる歯周病菌などの口腔内細菌を減らしておくことが大事です。
◆歯磨き、入れ歯の手入れをしっかりと
そのためには、毎日の歯磨きを丁寧に行うということが基本となります。誤嚥性肺炎は眠っている間にもリスクが高くなりますので、寝る前の歯磨きは特に念入りに行いましょう。入れ歯を使用している方は、入れ歯も消毒をこまめに行い、清潔に保っておくようにしましょう。
◆要介護の方は介護者がケアを
要介護の方の場合は、ご自分でのケアが難しいので、介護する方がしっかりとケアをしてあげてください。具体的なケアの仕方がわからない場合には、歯科で聞いてみることをお勧めします。
◆定期的な歯科でのクリーニング
また、歯磨きしていても汚れは蓄積してしまいますので、定期的に歯科でのクリーニングを受けるとなお良いでしょう。歯のクリーニングは訪問診療でも受けられますので、歯医者に通うのが難しい方は歯科医院に問い合わせてみましょう。
2-2よく噛んでゆっくり食べる
あまり噛まずに急いで食べると誤嚥しやすくなりますので、よく噛んでゆっくりと食べることが大事です。また、よく噛むことにより唾液がたくさん出て、飲み込みがうまくいきやすくなる、消化が良くなるといったことに加え、唾液腺の働きが良くなることでお口の自浄作用も高まります。
2-3食べる時の姿勢
食べる時の姿勢も大事です。誤嚥のリスクがある人の場合、上体を少し後ろに傾け、顎を引いて食べることが推奨されています。
上体を後傾気味にすることにより咽頭部に角度がつき、食べ物が気管に落ちるのを防ぎます。そして、顎を引くことにより、喉頭が挙上されて喉頭蓋が下がりやすくなることで、食べ物が気管の方に行くことを防ぐことができます。
2-4食後1時間半は横にならない
誤嚥性肺炎は、胃液が逆流することで起こることもあります。そのため、食事の後はすぐに横になることは避け、少なくとも1時間半くらいは上体を起こしておくことが推奨されています。
2-5就寝中も上体を少し高めにしておく
眠っている間にも胃液の逆流が起こりやすいため、上半身は少し高めにしておくと誤嚥性肺炎のリスクを下げることができます。
3.こんなにたくさんある!口腔ケアをしっかり行うメリット
3-1虫歯・歯周病の予防
口腔ケアの一番の目的となるものですが、歯のトラブルを防ぐためには口腔ケアは欠かせません。また、もちろん不快な口臭の改善もできます。
3-2誤嚥性肺炎の予防
お口の細菌を減らしておくことで、誤嚥性肺炎の予防効果があります。
3-3唾液分泌の活性化
口腔ケアを行うことで唾液腺が刺激され、唾液の分泌を促すことができます。唾液がしっかり出ると、消化が良くなるだけでなく、嚥下機能が良くなる、自浄作用が働く、免疫力が高まる、口腔粘膜のトラブルを防ぐなど、様々な効果が期待できます。
3-4ウイルス感染症の予防
口腔ケアをしっかりと行っているほど、インフルエンザなどのウイルス感染症にかかりにくくなることも調査の結果わかっています。
3-5老化防止
口腔ケアをしっかりと行うことで、咀嚼機能が正常に働きやすくなるので、認知症予防や転倒防止、しわ・たるみ防止にも効果が期待できます。
3-6全身疾患の予防
お口の健康は全身の健康と大きく関わっています。誤嚥性肺炎もその一つですが、そのほかにも、たとえば、歯周病は心臓病や糖尿病、脳梗塞など、多くの疾患との関連があると言われており、そういった意味でも口腔ケアの重要性は広く認識されています。
4.まとめ
口腔ケアというと、虫歯や歯周病予防というイメージが強いですが、今回ご紹介したように、実は全身の健康との関わりが深く、命にも関わってくるとても大切なものであることがお分かりいただけたかと思います。
加齢による摂食嚥下機能低下、免疫力低下などに伴い、誤嚥性肺炎のリスクはどうしても高くなってしまいますが、適切な口腔ケアを行うことで、できる限り誤嚥性肺炎を予防することが可能です。
また、摂食・嚥下に関わる筋力の低下を改善する「摂食・嚥下リハビリテーション」を受けることで、より誤嚥性肺炎のリスクが下げられますので、興味のある方は歯科医院で相談してみましょう。
この記事の監修者
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