親知らずの抜歯の後にできた穴を縫合するか縫合なしかはどうやって判断するの?
実は、親知らずを抜いた後に歯茎を縫うのにはメリットもあれば、デメリットもあり、その両方のバランスを考えてどちらにするか決めることが多いのです。今回は、親知らず抜歯の後にできた穴を縫合するか、しないかはどうやって判断するのか、ということについてご紹介します。
1.親知らずの抜歯時、切開・縫合する場合があるのはなぜ?
親知らずを抜歯する際、そのまま歯に力をかけるだけでスッと抜けることもありますが、実際、親知らずというのはそうでないケースが多くあり、そのような場合には切開や縫合が必要になってきます。例えば、次のようなケースにおいて、切開や縫合の必要性が出てきます。
◆親知らず抜歯で切開・縫合が必要になることの多いケース
1.1 横向き、斜めに生えている
親知らずで多いのは、親知らずが真っ直ぐ生えておらず、横向き、もしくは斜めに生えている場合です。このような場合には、抜くのに邪魔になっている骨を削ったり、歯を分割したりできるよう、歯茎を切開する必要があり、抜いた後には切った部分を元に戻す目的のため、また抜いた部分の穴も大きくなるため、食事の際、物が入るのを防ぐ目的で縫合が必要になります。
1.2 骨に深く埋まっている
骨に埋まっている部分が多く、表面から歯の頭が全て出ていない場合にも、同様に歯茎の切開、縫合が必要になります。
1.3 歯根が大きく開いている、もしくは歯根が肥大している
歯根の本数や形は人によって違いがあります。歯根が複数あって大きく開いている場合や、歯根が下の方で肥大した形になっていると、そのまま引っ張っても抜けませんので、歯や骨を削って歯を抜かなければなりません。
1.4 虫歯で歯質が大幅に破壊されている
親知らずが虫歯で大きく破壊されている場合、歯の頭の部分に力をかけて抜くことができないため、歯茎を切開して骨を削って抜く必要があります。
1.5 親知らず周囲に嚢胞ができている
親知らずの周囲に嚢胞ができてしまうケースがあります。このような場合には、歯茎を切開して親知らずと一緒に嚢胞を摘出しますが、嚢胞を完全に取り除くと穴が大きくなってしまいますので、縫合が必要になります。
2. 親知らず抜歯で切開・縫合するような難抜歯で起こりやすい症状とは
一般的に、親知らず抜歯時に切開・縫合を必要とするケースというのは、上記でご紹介したように、抜きにくい「難抜歯」と呼ばれる抜歯です。このようなケースでは、骨を削ったり、施術の時間が長くかかったり、もしくは深い部分を扱ったりすることもあるため、一般的に、抜歯後に次のような症状が起こりやすい傾向があります。
2.1 強い痛み・腫れ
歯茎の切開、骨の切削を行うことが多いため、その分麻酔が切れた後の痛みや腫れが強く出やすい傾向があります。
2.2 口の端に口内炎ができやすい
抜歯に時間がかかりやすく、口を大きく開いている時間が多いため、口の端が数日荒れたり、口内炎になったりすることがあります。
2.3 顔に青あざのような色が現れる
抜歯後数日すると、内出血が原因で、顔の表面に青あざができたようになることがあります。
2.4 顔の表面が麻痺したようになることがある
歯が深く埋もれている場合、歯根が下あごの大きな神経と近接していることがあり、歯を抜く際に神経に触れることによって、顔の表面の感覚が数ヶ月単位で麻痺することがあります。
3. 抜歯後どのくらいで抜糸する?痛みは?
縫合をした後には、その糸を取り除く抜糸が必要になります。ただし、抜糸に関しては、歯科医院や歯医者によって使用する糸の種類が異なり、自然に吸収されてなくなる糸の場合には抜糸の必要はありません。
吸収しない糸の場合には、大体抜歯をしてから1~2週間後くらいに行います。ちなみに、抜糸をする際には、通常痛みを感じることはありません。
4. 親知らず抜歯時に縫合をする場合、しない場合の違いは何?
一般的に、次のような場合には親知らず抜歯後に縫合を行います。ただし、縫合を行うかどうかの基準は、患者さんの状態や歯科医院の方針や考え方によっても変わってきますので、あくまでも目安として参考にしてみてください。
5. 縫合をする場合
5.1 歯茎を切った場合
歯茎を切開して抜歯を行った場合には、切った傷口がきちんと治りやすいように、縫合をします。
5.2 抜歯後の穴が大きい場合
特に親知らずが横向きに生えている場合など、抜いた後の穴が大きくなる場合には、食事中に物が非常に入りやすくなってしまうため、穴を小さくするために縫合を行います。
5.3 早く止血させたい場合
抜歯後の出血が多く、早く止血させたい場合には、縫合した方がより止血が早まるため、積極的に縫合を行います。中に止血剤を入れることもあります。
5.4 抜歯をした穴に抗生剤を入れる場合
場合によっては、抜歯した穴の細菌増殖を抑えるために、穴に抗生剤の錠剤を入れることがあります。そのような場合にも外に出ないようにするために縫合をします。
5.5 ドライソケットを予防したい場合
人によっては、特に下の親知らずを抜歯した後に、「ドライソケット」と呼ばれる、抜いた穴の骨が露出して炎症を起こし、強い痛みを出す治癒不全の状態になることがあります。これは歯を抜いた部分に血が十分に溜まらず、骨の表面が血餅でうまく覆われない場合に起こります。決して頻度が多いわけではありませんが、原因としては麻酔の効きすぎや喫煙といったものが挙げられます。
5.6 上顎洞と抜歯した穴がつながってしまった場合
上の親知らずの歯根の先端部分は、副鼻腔の一つである「上顎洞(じょうがくどう)」と密に接していることがあり、抜歯をすることで抜歯をした穴と上顎洞がつながってしまうことがあります。このような場合には内部への感染を防ぐために縫合が必要となります。
6. 縫合をしない場合
基本的に、上記で挙げたものに当てはまらない場合には、あえて縫合をしない場合も多くあります。歯茎の治りは皮膚など他の組織に比べて治りが早く、放っておいても順調に治ることが多いからです。縫合すると一時的には食べかすが入りにくくて良いようにも思われますが、縫合することによって顔の腫れは大きく出やすくなるというデメリットもあるため、縫合するのが全ての場合においてベストというわけではありません。
7. まとめ
親知らずの抜歯においては、切開・縫合するケースというのは珍しくありません。切開・縫合という言葉は、聞くだけで痛そうだと思われるかもしれませんが、抜きにくい状態である親知らずの場合には、切開をしなければ抜けないケースも多いのが現実であり、切った後の治りをスムーズにしたり、リスクが想定される場合には縫合がとても大事になってきます。
また、切開を行う際には、麻酔が十分に効いた状態で行いますので、切開をするたびに痛みを感じるということはありませんし、歯茎を切ったからといって術後の痛みが特に強くなるということもありません。
縫合を行うかどうかに関しては、親知らずの状態、患者さんの体の状態によるところが大きいですが、縫合をしなくても問題が起こらない場合にはあえてやらない方が、患者様にとってメリットが大きい部分もあります。
それゆえ、親知らずを抜歯予定で、縫合するかどうか気になる方は、事前に歯科医師と相談しておくことをお勧めします。
この記事の監修者
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